弊社では、牛血液分析データクラウドシステム「Bovimemo(ボビメモ)」を開発しました。
これは、弊社が開発した、牛血液検査装置「BoviLab(ボビラボ)」の運用の幅を広げたいと考え、ものづくり補助金を活用して開発したシステムです。牛を採血し、「BoviLab」を用いて分析し、得られた牛血液分析データを「Bovimemo」に送信することで、分析データがクラウドに格納され、インターネット上でデータが閲覧可能となります。
このことで、農場では経験の浅い獣医師が採血を行い、遠隔で経験豊富な獣医師が血液分析データを閲覧して、処置方針等を決定し、現場獣医師へ伝達するといったことが可能となります。さらに、ビッグデータとしてサーバーに保管しており、様々な企業や獣医師も利用可能です。ただし、データはどこの農場の牛とは分からないよう匿名化しています。
この、牛の健康管理のための牛血液検査データクラウドは世界初となります。開発したのには、畜産家や酪農家のなり手不足、大型家畜を専門とする獣医師が減少しているという背景があります。
獣医師は農場に直接行かなければならず、移動と時間にコストがかかります。そして農場で採血し、診療所に持ち帰り、検査機器がない場合は、検査センターに送り、返って来たデータを分析します。当然、そこにも手間がかかります。そのため、多くの場合、農場に行った際に、目視や触診での診断で済まさざるを得ない状況です。
牛の病気に、低カルシウム血症があります。カルシウムが不足し、骨がもろくなり、立ち上がれなくなるというものです。200~300キロある牛が倒れ、24時間経過すると体重が内臓を圧迫し、死を招いてしまいます。獣医師はカルシウムの注射を打つことで処置をします。しかし、処置をしても治る可能性が低いのなら、解体を選択するしかありません。なぜなら、生きている間に解体し、肉食として市場に出さなければならないからです。カルシウムが足りないだけで肉に影響はありません。しかし、死んだ牛の肉は市場に出せません。
肉牛の場合、200~300万円くらい、ブランド牛になると500~600万円で取引されます。乳牛は、年間約100万円の収入を得られます。死んでしまうとその収入が失われます。そのため、牛の健康管理は畜産家や酪農家にとって死活問題です。また、獣医師としても、定期的に血液検査を行いたいが、その手段がないというのが今までの現状でした。
「BoviLab」を活用すると、農場で簡単に牛の血液分析ができます。さらに、そのデータを「Bovimemo」にアップロードすることで、データが閲覧でき、遠隔でも診断ができるようになります。
最も役に立つのは遠隔地や離島です。例えば、長崎県の五島列島の島々。島にも畜産家や酪農家はいて、3~5頭という小規模で牛を飼われています。しかし、獣医師がいない島がほとんどです。長崎県から獣医師が船で行き、農場では目視、触診のみとなり、血液検査はできません。
そのような場合、「BoviLab」を用いることで、農場で血液検査をして、遠隔診療で診断するということが可能になります。触診目視より血液データを見る方が精度は上がりますし、「ちょっと数値がおかしいから処置をしておきましょう」と、予防医療もできる。症状が出る前にケアできます。
「Bovimemo」にアップロードされた牛の血液データが、ビッグデータとなって蓄積されているので、大学の先生や企業。治療関係、製薬関係の方々に興味を持って頂いています。
実は、人間の世界では血液のデータベースは当たり前になっていますが、畜産酪農の世界では皆無でした。農場個々が、データを紙ベースで保管し、期限が来たら廃棄するのが一般的です。クラウド化してデータを活用するという発想はありませんでした。血液分析が行われる検査センターによってデータのフォーマットは異なっていたため、統一したデータベース化が図れなかったということもあります。
畜産酪農では先進国の欧米でさえ、牛血液データベースはありません。そのため、欧米の方からの問い合わせが多い状態です。海外では、家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要という、アニマルウェルフェアの考え方が浸透しています。そのこともあり、牛の予防医療のために活用できないかという話をたくさん、頂いています。
モーションセンサーや、牛にカプセルを飲ませて体温を測りながらGPSで移動の範囲や歩数を見る、あるいは餌をどれくらい食べたのかをモーションセンサーカメラ、バイタルセンサー、いわゆるセンサーとカメラでデータを取る製品は数多くあります。それと比べて、弊社は、牛の血液データを取るというところで、一線を画いていますし、競合はいません。
人間もそうですが、健康診断で血液検査を行い、コレステロールが高いとか中性脂肪が高いと医師は診断しますが、症状は出ていません。これが血液検査で重要なところです。症状が出ていなくとも、「これは、良くない」となると、処置できます。もちろん、モーションセンサーなども有用ですが、分かるのは行動の異常だけです。つまり、もう症状が出ている状態です。症状が出ている段階では対処が難しいということもあります。弊社の「BoviLab」「Bovimemo」は、症状が出る前に血液で異常を発見できるので、早期に治療ができる可能性があります。
牛を解体する2日前から投薬してはいけないという決まりがあります。牛が座り込んでしまい、カルシウムが足りなそうだとカルシウムを打ち、翌日、回復は不可能だから解体しようと思っても、解体できません。このことから獣医師は治療して具合が悪くなったとき、解体ができなくなるため治療ができないというジレンマを抱えることになります。その場で血液検査をすることで、この数値が高いから、この病状だと判断ができれば、治療するか解体するかの判断ができます。
ある畜産家に獣医師の資格を持つ息子さんがいたことから協力頂き、「BoviLab」「Bovimemo」を使って頂きました。簡単に測ることができ、牛の健康状態が把握できると好評でした。また、別の酪農家でも、診療のために来た獣医師に使ってもらいましたが同様に、健康状態が把握しやすくて、大変良いとの評価を頂きました。
他にも、牛が出産する2週間ぐらい前に測定したところ、値が上がったことで、母体のエネルギー不足が判明し、サプリメントや栄養価の高い肥料を追加することで、出産後の周産期病を防いだという事例もあります。さらに、北海道のある牧場で大学の先生と一緒に実証実験を行ったところ、周産期医療の死が明らかに減ったというデータもあります。
獣医師が減少していることから、少ない数の獣医師が広範囲の現場を見なければならなくなり、移動だけで1日かかってしまっています。そのため、一つの現場に行くと、他には行けない。「牛が倒れたから早く来てくれ」と連絡があると夜でも行かなければならない。ほぼ24時間働いているのが、獣医師の現状です。
「BoviLab」「Bovimemo」を活用することで、移動中に血液データを見ることもできますし、別の人に見てもらって、指示をもらうこともできます。緊急ではないとなると、応急処置の指示だけで済む。獣医師が急いで行く必要もなくなります。予防と言う観点で見ると、重度化する前に防げるので、手間もなくなります。
畜産家や酪農家、あるいは獣医師。また、代理店になって頂ける飼料メーカーなど。他にも動物擁護医療機器を取り扱うバイヤーなどとマッチングしたいと考えています。
「BoviLab」は機械装置本体が50万円で、検査スライドが1枚1500円です。例えば、ブランド牛を1頭、失えば500万円の損失となります。畜産家や酪農家、獣医師からは有効性を感じて頂いています。
中小企業 新ものづくり・新サービス展はPRの機会としたいと考えていますし、様々な機会を設けて啓蒙活動を推進したいと考えております。
畜産業界にとって「BoviLab」「Bovimemo」は役に立つと、そう思いながら販売しています。
例として先日、沖縄出張時に農業共済組合の獣医師の先生や開業獣医師の先生方との話の中で、「沖縄では離島が多く、獣医師不足の為、獣医師がいない島もあり、なかなか診療に行けず、畜産農家からの苦情が多い。また畜産農家からの連絡は緊急な要件が多く、その対応が出来ず困っている」との事でした。
弊社の開発した「BoviLab」「Bovimemo」を活用し、遠隔診療をする事で牛の病気の早期発見・早期治療を可能にします。また、獣医師の環境改善、労働環境の整備に繋がると考えています。
しかし、そのためのPRが、弊社では、まだ不足していると痛感しています。今後の展望の前に、PRを続け、遠隔診療、早期治療の大事さを伝えて行くことが大切だと考えています。販売面では、海外には、日本初の技術という点をアピールし、世界拡大を図る計画です。
アメリカや中国には大きな市場がありますが、産業動物を大事にするヨーロッパをメインターゲットとしており、現在、オランダの代理店が、ヨーロッパ方面へ販売を開始しています。他にも韓国、ニュージーランド、台湾でも取り扱いが始まっております。
なにより、産業動物は、人間が生きるために存在していますが、意志を持った動物です。我々の役に立ってくれる分、せめて生きている間だけでも健康でいて欲しいと考えています。
弊社の本社は、銀座にあるのですが、その銀座で牛のことを考えている会社です。
元々は商社でした。食品関連の輸出入などを事業としていた中、新規事業として医療関連の研究に着手することになり、分離独立したという、異色の成り立ちです。
弊社の特徴は、小規模ながら開発もできる商社だということです。従業員の半分が開発要員で半分が営業管理を担当しています。開発能力と営業力の両方を持ち得ているのも、会社の規模から考えれば異色だと思います。
研究のラボが、大阪府茨木市彩都の、彩都バイオイノベーションセンターにあります。彩都は、大阪府が様々なバイオ関係の企業を誘致することを考えて開発した場所です。ここに彩都事業所を置き、一室はラボで、一室が工場となっています。
弊社では、農水産物の加工及び販売輸出入を事業としていたことから、畜産関係者の窮状は、十分把握しておりました。ある時、畜産系の大学の教授と話す機会があり、牛の血液で様々な項目が測れたら助かるが、現場では測れないと嘆く声を聞きました。
例えば、遊離脂肪酸(NEFA)という項目は、人間でも測っていたのですが、臨床的意義がなくなったことで、今ではあまり測らなくなりました。需要が減少したことで製造を中止した医療メーカーが多く、測ることが困難となっています。しかし、牛では必要な項目です。
畜産家や酪農家、獣医師の役に立てるのなら、弊社で開発しようと取り組んだのが全てのスタートです。畜産家や酪農家にとって、牛の健康管理は大切なことですが、同時に大変な苦労が伴います。もっと効率化し、牛を育てやすくすれば、損失も減らすことができます。
ちなみに、牛が死ぬまでの間に何頭、産むと思いますか? 大体、7~10頭を産みます。ところが、飼養下では2~3頭しか産みません。それは、牛の飼養に問題があるからです。日頃の健康管理を適切に行えば、母体は健康になり、子牛も産まれます。そうすれば、畜産家や酪農家は収入を上げることができます。「BoviLab」「Bovimemo」を活用し、状況を改善し、持続可能な事業に注力して頂きたい。
生産者も減り、獣医師のなり手も少ないという現状で、日本の酪農は危機的な状況にあります。少しでも環境をよくし、弊社としては、日本の農業を盛り立てていきたい、と考えています。
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