2016年、福井県で、越前和紙を基材に漆喰塗料を塗布した抗菌・抗ウイルス、抗アレルゲン、抗VOC、消臭・調湿など様々な高機能を持つ新素材が開発されました。
しかし、幅広く展開するためには印刷ができるようにしたいと開発者たちは考えました。様々な印刷会社がチャレンジしたのですが、あまり上手くはいかなかったそうです。そんな時福井県にある弊社に相談が持ち込まれ、印刷を施す研究を始めたのがこの事業の始まりです。
実現まで時間を要しましたが、印刷が可能となったことから、ものづくり補助金を活用し、水性顔料の大判のインクジェットプリンタを導入しました。なお、インクジェットプリンタは漆喰に印刷できるように、通常機よりインクの出方などを調整した特殊機になっています。
そして、新素材に印刷を施すことにより高意匠という価値を付加し、漆喰和紙「銀雪」として展開する事業をスタートさせました。
漆喰和紙「銀雪」は、暮らしを快適にする製品です。弊社では、高機能を活かせる分野として、壁紙としての展開を考えています。ただし、高機能であるがため、どうしても高額になってしまいます。そこで、効果を期待する部屋を中心に使用したり、アクセントクロスとしての使用を提案しています。
研究・開発には約1年もかかりました。中でも漆喰の上に色を付ける方法を確立するのに非常に苦慮しました。日本には漆喰の壁は沢山ありますが、白以外の漆喰の壁はほぼありません。私は国会図書館に籠り、文献を調べ、どうすれば漆喰に色を付けて定着させられるのかを調べましたが、手がかりとなる文献はありませんでした。困っているとき、海外の文献で、フレスコ画というものがあると知りました。
フレスコ画は、漆喰の壁が生乾きの状態のときに水性顔料で絵を描くことで、顔料が中に閉じ込められ、色が定着するという技法です。だから何百年経っても色褪せない、との記述を見つけ、「ここにヒントがあるのではないか?」と思いました。フレスコ画では、ミケランジェロが礼拝堂の祭壇に描いた『最後の審判』や、ラファエロがヴァチカン宮殿「署名の間」に描いた『アテナイの学堂』が有名です。(ちなみにフレスコはイタリア語で、英語だとフレッシュとなります。)“生”乾きの状態で、水性顔料で絵を描くのでフレスコ画というそうです。
次に日本でフレスコ画を研究しているところはないかと調べたところ、お隣の石川県の金沢大学に、フレスコ壁画研究センターがあると知りました。そこで私はセンターを訪ね、フレスコ画の技法について学びました。そして、それに近しい印刷方法で印刷ができる機械を探し回り、水性顔料を用いたインクジェットプリンタにたどり着き、様々な検証を行って、ようやく実現にこぎつけた、というのが本事業に至る経緯です。
そして、印刷による機能低下の有無についても何度も検証を行い、印刷しても効果の減少がほぼ無いことが分かったので、実用化に踏み切りました。現在では、壁紙以外にも機能が発揮できる製品への展開を進めています。特に靴用の消臭アイテムは企業ノベルティとしても好評をいただいています。
漆喰和紙「銀雪」は、抗菌・抗ウイルス、抗アレルゲン、抗VOC、消臭・調湿など様々な高機能を持っており、これらを生活空間で使用することで、安全で快適な生活が送れます。また、印刷により意匠性が高まり、視覚でも楽しめる製品を創り出せるようになりました。
実際に部屋に壁紙として使って頂いているお客様には、「暮らしていて気持ちがいい」という意見を多数頂いています。また、保育園ではプリントした壁紙を使うことで、無機質な空間ではなくなり、気分も明るくなると好評頂いています。
世に出回っている多くの壁紙が競合だと考えていたのですが、最近になって様相が変わってきています。この製品を多くの人に紹介していく中で、高品質なものを求めるお客様は、環境への意識が強いということを感じるようになりました。そのため、低価格なビニールクロスより、高価格であっても機能性はもちろん、環境面においてもアドバンテージのある「銀雪」を選んでいただけることが多いです。
「銀雪」は環境にも配慮して製造しており、″漆喰“と″和紙“が共に自然素材であるだけでなく、印刷に使用するインクも環境性能に適合したものを使用しています。自然素材でありながらこれだけの高機能を兼ね備えた製品は、他には類がないと思います。それこそが「銀雪」の優位性だといえます。
そういった点が評価され、最近では高級ホテルや外資系企業、海外のデザイナーからの問い合わせも増えている状態です。
一番使って欲しいのは、人が集まる場所や普段の生活空間です。「銀雪」を使用して喜ばれている事例をいくつかご紹介します。
新型コロナウイルス感染症の流行以降、人々が集まる場所では、様々なリスクに対する意識が高くなりました。福井県鯖江市の『子育て支援センター にじいろ』さんでは、一時預かり室と授乳室等で、大阪府東大阪市の市役所さんでは授乳室に採用して頂きました。
こういった場所では、「銀雪」の消臭機能により、おむつ替え等により発生する嫌なニオイの消失に効果を発揮します。また、不特定多数の人が出入りする場所でも、「銀雪」の抗菌・抗ウイルス効果により、安心・安全な空間で子どもたちが過ごすことができます。
また、VOCsの吸着・無害化、抗アレルゲン、二酸化炭素吸収などの機能により、バリア機能が未熟な赤ちゃんにも安心して調乳・授乳をしていただけます。
どちらも、お花や蝶、カワイイ動物など、子どもが好きそうな絵柄をプリントして、見て楽しめるようにしています。その他には、福井県勝山市にある『一棟貸しの宿 清流亭』さんでは、襖に採用して頂きました。
地元の景勝地 平泉寺白山神社の写真を、「銀雪」の壁紙の上に色鮮やかに印刷し襖に仕立てることで、宿泊者は見て楽しみながら、感染症対策の効果を得ることができます。また、「銀雪」の消臭機能により、気になるニオイの消失にも効果を発揮しますし、抗菌・抗ウイルス効果により、宿泊されるお客様に安心・安全な空間を提供できます。
襖が寝室に面しているので、「銀雪」の抗アレルゲン(花粉・ダニアレルゲン)機能により、気持ち良く睡眠できる環境づくりに役立ちます。
更に、福井県鯖江市にある、『茶癒 Sa-Yu 中松』さんでは、市松模様を印刷した壁紙を天井に貼る事で、和モダンな空間に仕上がりました。
どちらも、利用されるお客様に快適な空間で安心して過ごしていただきたいというオーナー様の想いから採用して頂きました。
2019年の秋に、中国上海テレビのとある人気番組(中国版『劇的ビフォーアフター』)で取り上げて頂いたことがあります。
それは老朽化した住宅を改造するという番組で、建材のひとつとして「銀雪」を採用して頂きました。上海テレビのスタッフが弊社まで来所され、ロケを行い、実際に使用する壁紙を印刷しているところが放映されました。
番組内容は、認知症のおばあちゃんのために家をリフォームする、というものです。そのおばあちゃんは、認知症に加えて、糖尿病や高血圧など、いろんな病気を患っていました。そんなおばあちゃんに心穏やかに快適に暮らしてもらいたいということから、おばあちゃんが大好きな中国の景勝地である湖の風景をプリントしました。その番組がとても好評で反響が大きかったため、中国への展開を予定していたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い計画はストップしてしまいました。その後もコロナ禍で海外に行けなかったのですが、チャンスがあればぜひ海外には挑戦したいと考えていますし、海外の方にも喜んでいただけるポテンシャルを持った製品であると思っております。
「銀雪」は機能がたくさんあるので、少なくともひとつは、誰かの何かの課題を解決できる可能性があると考えています。また、多くの課題をお持ちの場合にも、「銀雪」は機能が多い分、課題を解決できる可能性は高いと思っています。
実は、「銀雪」とネーミングしたのは、中国での放映がきっかけです。国際商標を取得するために、それまで「漆喰和紙壁紙」と呼んでいたものを、日本だけでなく、中国でも通じる名称にしようと考えました。我々が持つ銀雪のイメージは、雪が降り積もった銀色の世界です。中国で銀雪という単語は、雪が深々と降り積もり、清涼で凛とした、空気が澄んだ感じを言うのだそうです。まさに「快適な空間で、気持ち良く生活してほしい」という我々の願いとマッチすると思い「銀雪」と命名しました。
壁紙を必要とする方がいらっしゃったら、ぜひともお会いしたいと思います。また、環境に意識を高く持たれている壁紙のバイヤー、代理店なら、興味を持って頂けると思います。
他には、ホテルや旅館、居酒屋、レストラン。他とは違う壁紙を求める方へ。そして建築系の設計士。無機質な壁ではなく、絵が描かれているところが増えてきたので、他とは違う雰囲気の壁にしたいと考える方とマッチングできれば嬉しいです。
中小企業 新ものづくり・新サービス展に出展することで、漆喰和紙「銀雪」を扱って頂けるバイヤーさんとお付き合いさせて頂き、きちんとコミュニケーションを取らせて頂きたいと思っています。バイヤーさんを増やして行くことで、その先にいろんなお客様の顔が浮かんでくると思います。いろんなお客様にアクセスするためにも、バイヤーさんに選択してもらえるよう、知名度を上げ、良い商品にしたいと考えています。
売り上げとしては、まずは年間1億円を目標にしたいと思っています、ようやく事例ができ、展開できるような状況になってきたので、ここから加速させたいと考えています。
弊社は、1959年に創業した、福井県鯖江市にある町の印刷屋です。クライアントは、地元の自動車関連機器メーカーさんなどです。地元の市場はさほど大きくはないので、その中で細々と取り組んできました。
漆喰和紙「銀雪」に取り組むまで、一般的な紙の印刷業を営んでいる中で、皆さんの生活を快適にする、できるというようなケースに遭遇することはありませんでした。「銀雪」の事業を推進することで、皆さんの生活を快適にできる。かつ、自然環境に対しても優しくできる。様々なシーンで役に立ってもらえる。皆さんの生活と地球環境の両方のテーマを追求することによって、世の中に貢献して行ける。そんな思いで、本事業に取り組んでいます。
印刷市場は、毎年、5~10%シュリンクしています。近年、ペーパーレスが一気に加速し、毎週のように印刷屋が全国で倒産しているという状況です。正直にいうと、弊社もつらい日々を過ごしております。
ただし、印刷は無くなることはないと考えています。紙が悪いとかそういうことではなく、世の中にとっての価値があるかないかだと思います。紙に情報を印刷するという従来の事業は、シュリンクしていってしまう運命にあるのかもしれません。しかし、世の中が求める価値をどこにつけるかを間違えなければ、印刷技術は様々なところに使えます。
例えばプリント壁紙は、大手メーカーが大きな機械で柄を大量に印刷するのが一般的でした。それが、オンデマンド印刷で一点からでも、自分の好きな絵や写真が印刷できる。今までできなかったことができるようになることで、‟印刷“でも新しい価値を生み出せるようになってきています。
和紙に漆喰を塗ることで機能の価値を付加する。弊社で印刷して更に価値を付加する。世の中に役立つ価値を適切に展開して行けば、‟紙“にもまだまだ可能性はあると思います。今までと同じ戦い方ではダメだと思いますが、今まで培ってきたことを上手く活用すれば、可能性は無限だと考えています。
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